『農業再興』を読んで

カミさんが会社で借りてきた日経ビジネス6月28日号に『農業再興 -食の崩壊を回避せよ』と題した特集が載っていたので読む。
要約すると、今までの農協の無責任な私欲主義と政府の風見鶏政策によって日本の農業は衰退してしまった、そして今生産者側で再興を目指してより市場に近いマーケティングを行っている、という事。 どちらも、偏りはあるが間違ってはいない。
しかし重大な点が一つ。 問題提起は明らかに政治経済的問題として農業衰退を扱っている。 しかし現状努力と打開策例はただのマーケティングの話である。 つまり問題提起はしているが、解決策もしくはより詳細な現状調査を行っておらず、安直に『辛いが農家もいろいろ頑張っている』的結論となっている。 というより結論が無い。 ただ小規模アグリビジネスの例(産直で外食産業相手に展開した中堅企業や、農家参加の市場等)がいくつか挙がっているだけである。 問題はそうではない。 以前にも書いたが、日本の農業は産業として成り立っていないのである。 原因は何であれ、現状はセンシティブ品目に対する高関税(米は400%以上)などその場しのぎの政治的裁量によって『守られている』のが日本の農業である。 打開策はより政治的、そして構造的な改革でなければならない。 WTOの現在の状況やその他政治的な打開案等には一切触れられていない。
もちろんお馴染みの食料自給率に関しても触れられているが、農水省のウェブサイトで公開されている以上の情報は無く、ここでも農協批判に終わっている。
登場する農家も、怒る気は分かるが、農協や政府には『正義が無い』と言いつつ自分がヤミ米を売るのは『仕方が無い』的姿勢が見え正直うんざりしてしまう。 政府の愚作に振り回された、農協にいいようにされ畑を持っていかれた。 その意見に異論は無いが、まずは己の非を検証すべきであろう。
ちょっといくらなんでも気になるので、ある農業作家の記事から引用する:

次々と報じられる農業の問題は、そのまま農家の問題にすり替えられている。「補助金ばかり食ってないで、農家が何とかしろ。」山下には、そう言われているように聞こえてならない。 「ふざけるな。農家の頭の中にあるのは、収入のことだけだ。 このままでは食料は安全にならんぞ。」

みながそう言っている訳ではないとは思うが、一般的にそういう考えは非農家にはあると思う。 私も、『農家が何とかしろ』と言うつもりはないが、『補助金ばかり食ってないで』とは思っている。 それと食の安全とどう関係があるのか分からんが、つまり食の安全に関して言えば農家ではなく政府に言え、ということなのだろうか。 そうなら、私もそうすべきだと思う。 食の危機を何でも生産者の責任にするのはそもそも問題解決に何ら寄与しない。

「多くの百姓は、農業だけで食べてきた歴史が無いんだよ。 専業農家を保護して独り立ちさせようなんて無理」 少なくとも、こうは言える。 手かせ足かせをはねられた農家が1つの方向に邁進するのは危険だ、と。 それは歴史が証明してきた。

ごもっともである。 政府の打ち出す農業政策の根本がずっとおかしかったという指摘は私も正しいと思う。 ただ、言わせてもらえば『何を今更』である。

危機感の欠如ー なまじ工業立国になったため、すべてをカネで解決しようとする。 農家にカネをまいて尻を叩けば、何とかなる、と思っているのだろう、と。 それでもダメなら、海外から買えばいい、と。 「甘い。 食糧危機になったら、日本のために作物を作ってくれる農民など、世界中に1人もいない」

ん? なぜ世界中に1人もいないのだ?

農家を守ろうとする意志がないのなら、もういい。 百姓だけで食べ物を回して、独立するぞ。

結局、守ってくれ、ということだろうか。 そもそもの根底原因が、農協を媒介に使った保護政策なのである。 何から独立するつもりか知らないが、したければすれば良い。