The Big Picture

『食糧法システムと農協』 asin:4541026481
読破。 本運良し。 右も左も分からない状況でこの本を選んだ事は幸運だったと思う。
この本は、新食糧法施行に伴う米流通の変化と、その変化に対応する農協対応の利点・欠点、特に現状での問題点と今後の展望を明解かつアカデミックに解説している。 読む前に最も心配したのはこの本が『これが農協の正体だっ』的ジャッジメンタルな姿勢で書かれているかどうかであった。 もしそうであれば読んでいなかった。 また、一著者の見解ではなく、論文を集めたものである点も大きなプラスだ。 そして何より、出版されたのが2年前と比較的最近である。 食糧法が施行されてから8年になるが、毎年食糧法は大きく改定されており、また農協が遭遇する問題点とその対応策も違っている。 このトピックに関して、情報がどれだけ新しいかというのは非常に重要な点である。 その点も充分クリアしている。
特に金融面、農家への支払と仮払い制度、計画外流通米への農家のシフトを押さえようとする農協の対策とその難しさについての解説は的確かつ分かり易い。 そして政府と農協との食糧法を巡るやりとりと政府対応の不手際も、非難と言う形ではなく純粋に経営的な、そして経済的な観点からの指摘である点も特筆すべきである。
米屋に来て1ヶ月が経ったが、この本に書かれているある程度の事はどこの米屋でも周知の事実であろうし、また目新しいものでも無いであろうということは分かっている。 しかし、米屋の多くが問題の本質、そして今後起こるであろう変化の潮流への認識が低い所を見ると、表面的な変化しか理解していないのであろう。 と言うより劇的な変化に対して受動的に感知し対応するのに精一杯なのであろうと思う。 そんな米屋にこそ、本質を見極める必要性は高く、この本の提供する情報は大変有意義である。
一般にとっては、私を含めて、非常に興味深いのではないかと思う。 私も農協の悪口や政府の農業対策に悪態をつくことはあったが、実際の農協と政府との関係を的確には把握していなかった事が分かった。 この点に関しても、歴史的背景を解説しながらの説明であったので不自然な印象無く、純粋な驚きをもって理解できる。 そして、食糧法という大きな変化であるが、これは本を読む前に認識していた程度の変化であることが確認できた。 つまり劇的である。 そして農協の対応もまた本質的に常に手遅れであり、不充分である。
今後、我々の農業としての認識は、アグリビジネスとしての産業へと変わっていくのではないかと思われる。 政府と農協が、今行っている農業保護政策をいつまで、どの程度まで維持できるかは疑わしい。 牛肉もそうだった。 『堅いアメリカの肉なんて安くても誰も買わない』と当時は言っていたが、今やスーパーの食肉の棚に並ぶ肉の2/3が輸入肉である。 外食産業においての輸入肉に対する依存度の高さは、吉野家の今を見ても明らかである。 今後、米そして野菜にも同様の変化が起きないとはとても思えない。 その時に米屋を始め全てのアグリビジネスに従事する者の真価が問われるであろう。