米屋の月曜日

月曜日は忙しい。
いつものことだが、そしてどんな仕事でもそうだが、月曜日は忙しい。 そして米屋も例外ではない。 うちの店は某デパートのニコタマ店と日本橋店に支店を出しているが、月曜日にはその両方からの発注も重なる。 そして今日は社長は横浜での祭事の為いない。 一日中米を袋に詰める作業だった。
ニコタマ店では精米では無く玄米のみを納品している。 そして玄米を店頭精米して売るというモデルだ。 『じゃあ玄米をそのままニコタマ店に送ればいいじゃん』と思う方もいるかも知れない。 私もそう思った。 しかしデパートの在庫置き場は非常に狭い。 2m×3m×1mのスペースしか我が社のストックは置けない。 一方入荷の際問屋等から送られてくるのは30キロの米袋である。 そのままだと8っつ程しかおけない。 それ以前に店頭に全銘柄30kg入るディスプレイケースが必要になる。 そして、デパートのおばちゃんに30kgの米袋を担がせることも出来ない。
そしてもう1つ。 例え玄米販売をしている場合でも、産地直送の玄米をそのまま売ることはあまり好ましいと思われていない。 産地により様々だが、カメムシによる被害の表れである『焼け』(米が焼けたように黒く汚れる)や籾の残留、時には借り入れ時の不備で小石やガラス片等が残留する場合もある。 この焼けを色彩選別機と呼ばれる機械に通して不良米を取り出すのである。 中には秋田の神代じゃんご米のように産地において品質管理が徹底されておりそのまま使える場合もあるが、例外的と言わざるを得ない。 我が社でも常時40品目20銘柄程扱っているが、色彩選別機を通さなくて良いのは2,3品目程度だ。 後は必ず色彩選別を行っている。
話は逸れるが、この色彩選別機、略名『色選』の仕組みは結構面白い。 エレベータを使って機械上部にまで運ばれた米は、10程のレールに適量ずつ流れるように並び替えられる。 そしてそのレールを滑り台のように滑り、受取口に落ちるようになっている。 焼け等異常に透明度の低い米をセンサーが感知すると、その滑り台から落ちる直後の米めがけてコンプレッサがエアーで弾き、受取口に落ちずに不良品口に落ちるようにするのである。 まさしく正確無比のクレー射撃(いや、実際そこまで精度が良くないのが問題なのだが)が一粒一粒の米に対して行われているのである。 1日、500kg程色選にかけて、200g程はこのクレー射撃の的となり、打ち落とされ、散っていく。 機械の蓋を開けて見ていると中々楽しい。
話は戻るが、この色選機、当然コンプレッサーを必要とする。 そしてコンプレッサーとはけたたましい音を立てる機械である。 また、色選機とコンプレッサーはやたら大きく、しかも高価な機械である。 当然デパ地下に置いて店頭処理できる作業ではない。 いや、逆にそれをディスプレイとして特殊な見える色選機を設置するというのも玄米の単価価値を高く見せる効果があるかも知れないとは思うが、実用的とは言いにくいし何よりそんな特注品作ったらいくらかかるかわからない。 普通の色選機で、600万円から800万円くらいかかってしまうのである。
とにかく、という理由で私は一日中、色選機に玄米を通し、通ったものを計って5キロ詰めにしていくという、何だか水害時に土嚢を積んでいるような錯覚を覚えつつ働いている。 単純作業だが、あまり疲れない。 昔からそうだが、私は単調な作業が延々と続く、といった事に昔から結構強い方だ。 毎日数時間、かれこれ3週間程やっているが一向に飽きない。 仕事をしながら銘柄ごとの米の特色や、クレー射撃の成果、そして品質状態等を飽きもせず見ている。
ただ、熱いのである。 米は呼吸する為、クーラーをきかせるわけにはいかない。 小売の店頭で温度・湿度管理されているケースも少なく、当然うちにもそんな高価な設備は無い。 頭上1mのところで、昔電車の天井についていた(東横線や、関西だと阪急電車にあった)扇風機が一機、一生懸命首を横に振っているだけである。 熱い。 今日は30度程度まで上がったらしいが、アスファルトからの照り返しが午後には店の作業場にまで伝わってくる。 そして、30キロの米袋を担いでウロウロしているのである。
とは言うものの、熱くて汗は大量にかくが、それ程苦にも思っていない。 たぶん真夏でも同じような感じだろう。 汗をかいて、へばって、糠だらけになって働くのは非常に気持ちが良い。 50歳になっても同じことをしたいとは思わないが、今私が感じている大きな充実感はこの肉体労働に大きく依存していると思う。 震災後に家具の配送をやっていたが、あの時はこんな充実感というものは無かったように記憶している。 自分が変わったのか。 おそらくそうだろう。 いずれにせよ、今は仕事が気持ちよい。
これで週休2日なら最高なんだが。 1日だとやはり何かと時間が無い。