『悪戯の流儀-雀鬼流人生必勝の手順』 by 桜井章一 (ISBN:4413032543)

悪戯の流儀

何だかチープな官能小説のようなタイトルだが誤解の無きよう。 ギャンブラーの為の『七つの習慣』とでも言うべきか。
この書は20年間無敗伝説を打ち立てた、自らを『雀鬼』と呼ぶ(この時点で既に男前だ)桜井章一の人生哲学の本だ。 麻雀とは何か、そして勝つとはどういうことか、麻雀という娯楽であり勝負の場であるやり取りを生き抜いてきた、稀代の名雀師が送る人生必勝の書である。
この人の配譜(麻雀のスコアブックのようなもの)を見ると、まさしく雀鬼としか言いようが無いのが分かる。 人間として有り得ない打ちなのだ。 5000点浮きハナ差2着の南二局、ここで配牌は三色目ドラ1のリャンシャンテン。 凡人ならドラが頭になれば万々歳で三色目崩れメンピンドラ切りリーチあたりが最終的な結果だろう。 しかし3順目でイーシャンテンにもなっていないのに、この人はドラを切るのだ。 そして三色目を次順で崩し、サンシャンテンまで落とす。 一体何を考えてるのか見当もつかない。 彼はこの局テンパイで流局し、次局もテンパイ琉局、そしてその次で親ッパネをツモアガり勝利を決定付けた。 何故誰も上がれず流局してしまったのか、そして何故彼はまさかの三暗刻を配牌ウーシャンテンから見事読み当てたのか(しかも聴牌まで無駄ヅモ無し)。 その全ては、彼の壮大な計画にあったのだ。 タイガーマスクで言うところの、『虎だ、お前は虎になるのだ』という雄叫びが、彼の体内では完成している。 しかし彼は虎などという惰弱な動物ではない。 彼は鬼なのだ。
オーバーに書いているが、私は最近こそ打っていないが麻雀は好きだし名手にはそれなりの敬意を払っている。 馬鹿にするつもりなど決してないということは留意していただきたい。 この本は読めばどうなるというたぐいのものではない。 そして、麻雀を知らなくても世の中生きていくのに何の不自由もしない。 しかし、遊戯とはいえ1つのゲームを極めた人間が奥義として綴ったのがこの本。 ヘッセの『ガラス玉遊戯』に通じるところは、いや全く無い。 というより遊戯を題材にしているというだけで他の接点は何も無い。 しかし、この書にかかれている事はあるユニバースでは真理なのだ。 あなたの哲学は間違っていないかも知れない。 しかしこの世には、あなたの想像力では計りし得ない別のユニバースがあり、そこでも人は同じように試行錯誤しながら人生を歩んでいるのだ。 それを垣間見れるというだけでもこの本は有益だ。