I'm a Shintoist at occasion.

1週間前の天気予報では、近畿地方は台風が直撃のはずだった。 しかし当日は快晴。 日光を吸収する為にデザインされたような袴を着た私と、西友とかで売っている安手のふとんくらいの厚さはある打ち掛けを着たカミさんは、久々に30度近くまで上がった天気の中逆上せるはめになる。 運が良いのか悪いのか。
そう、神前式である。 別に神道信仰故ではない。 そもそも結婚式を挙げるつもりもなかったのである。 発端は今年の正月。 たまたま母の知人の店に出向いた際、娘さんが神前式をしたとの話を聞き、その時の写真を見せてもらって妙にその気になってしまった。 その娘さんが式を挙げたのが西宮の廣田神社*1と聞き、時間もあるので廣田神社を見に行こうということになった。 そして神主さんに話を伺った所、玉串料*2はなんと5万円とのこと。 カミさんの口調に見事に乗せられ、その場で予約を入れて帰って来た。 実は父が他界したのが4月なので一旦延期となったのだが、今回晴れて結婚の儀と相成った。
玉串料は5万だが、Tシャツにサンダルで三三九度という訳にもいかないのでカツラや着物などが必要になる。 ちなみに神前式の今回の費用は全て纏めて40万円程度。 しかし予算は無い。(だって資金的な準備も何もしてないし。) 当初70万円から最高でも100万円にしようという計画だった。 まずは優先順位を考えた末の条件はこんな感じ。

  • 参列人数は新郎新婦合わせて40人。 つまり身内と近い友人くらいで会社関連は排除。
  • 披露宴ではなく、レストランを貸し切りにして食事メインに。 司会者や上司の挨拶やカラオケは排除。
  • 新郎側は地元なので全員自力で移動。
  • 引き出物は質素に。
  • 会費無し。 一応ご祝儀はいらないと招待状に明記。
  • 食事も着物も引き出物も、全て知り合いを通す。
  • 現場要因は親戚縁者の若い衆に託す。
  • 唯一の贅沢として、写真はプロを雇う。

子供の頃から付き合いのある地中海料理(最近はフレンチ寄りっぽい)で、40人なら30万で全部込みOKとの返事を早速受けていたので食事会の場所は決まる。 そしてここのキャパが40人程度なので、規模的に適当と早々に判断をくだす事ができた。 そもそも披露宴はつまらん行事が入るので長くなる。 しかも美味くもない食事に法外な値段を取られる。 それは我々のスタンスには合わないので、あくまで限られた金額で最大級に美味いものを食べさせてくれる、この要求に応えれる所は他には無かった。 結果、食事は大正解である。 イベリコ豚のハムから始まって、何だかシュークリームが重なったようなフランスの結婚式ケーキまで、新郎新婦が挨拶回りも忘れて率先して食べに入る程美味かった。 我々は、美味いものを食べてもらって、楽しくお喋りしてもらえればそれで満足である。
引き出物は、こちらも食べ物、しかもとびきり美味いケーキと早くから決めていた。 引き出物は無くなるものに限る。 どうせだったら神戸が誇る隠れた名店のフルーツケーキなんかをホールで持って帰ってもらって、1週間くらいちょこちょこ楽しみながら食べてもらったほうが幸せである。 こちらも、ここしかないという希代の名パティシエに知り合いがいた強みもあって反響上々であった。 余った1つを持って帰って早速食べた我々が、引き出物に渡すには勿体ないと思った程美味かった。 ようは食である。 人間、美味いものを食べている間は誰でも幸せである。
さて、当日。 奇跡的に5時頃起きれた我々は、6時頃に美容院に向かう。 着付けの先生や助手さんは既に現場入りしており、来るなりカミさんの着付けが始まる。 私は、実はそんなに早く来る必要は無かった。 袴の着付けなんて15分くらいで済んでしまう上に、ヘアは家を出たままである。 着付けが終わると写真屋さんでお決まり写真をいくつか撮ってもらい、その後タクシーで神社に向かう。 実はそのタクシーも、前日に予約を取ってもらったくらい準備はいい加減だったが、まぁ着物が崩れずに神社まで行ければそれで良い。
現地に着くと既に到着している親族もおり、受付をしてくれているカミさんのお姉さんが堂々と切り盛りしている最中だった。 正直お手伝いの人々には何も具体的に指示をしていない。 我々も分からないのである。 神社から渡された大まかなスケジュールにちょっと補足を足した程度で『後は臨機応変に』という無茶なお願いに皆手際良く動いてくれ、新郎新婦が『すごいなぁ』なんて眺める始末である。 ここで初めて巫女さんに玉串奉納やら三三九度やらの説明を5分程度受ける。 そして、直ぐに本殿に向け行進である。 正直おどおどする暇もない。 もうキューは出ているのである。 後は歩くだけだ。
本番は、もう巫女さんの声を聞きながら言われた通りに動くだけである。 すぐそばでキュー出ししてくれるプロがいるのでそれほど緊張もしない。 神主さんの動きを観察できるほど、結構余裕もあった。 時間はだいだい45分くらい。 長過ぎず短過ぎず、なるほど何百年もやっていた手順は洗練されていると妙に感心してしまった。
式が終わると記念撮影タイムを迎える。 それも終わると参列者は食事会会場へ、我々と、そして頼んでもいないのに和服を着ると張り切っていた母親2人は着替えてから後を追うこととなった。 我々の到着まで仕切りがいない分皆手持ち無沙汰にはなったが、正直遅れて行った我々は待たせている立場なのであまり気にならなかった。(大変申し訳ない。) サクッと新郎新婦が挨拶をした後、母方の伯父さんが『?笥長持唄』という長唄を披露してくれた。 何となくちょっと感動的な雰囲気となったところで、早速食事会開始である。 飲めない私がちょっと飲まされて、睡眠不足と重なってウトウトするという失態はあったが、皆無秩序に食事をしながら写真を撮ったり喋ったり、それは楽しそうだったのでこっちも楽しくなってきてしまった。 正直我々には緊張とかそういうものが全く無かった。 とにかく食事が美味かった。
『とにかく楽しい自己紹介になるような結婚式にしたい』という希望の元に準備は手抜きであったが、希望以上の結婚式となった。 不束な我々に変わって色々と骨を折って下さった方、低予算にも関わらず最大限我々の要求に応えてくれたみなさんに感謝の気持ちで一杯だ。 招待状には『ご祝儀等のお心遣いのありませんように』と書いていたが、結局みなさん用意してくれて、大きな声では言えないが結婚式と食事会、タクシー代その他全部合わせてもちょっと黒字になる程だった。 神社での神前式はいいね。 是非お勧めしたい。

 

*1:阪神タイガースがシーズン前に必勝祈願をする神社

*2:神前式の基本料金。 社務所の使用料やその他小道具一式を含む。 『おみや』もあり。