夢破れても

嗚呼、スキラッチ

何だか物思いに耽ってしまった。
私がヨーロッパサッカーを初めて見たのは、中学の頃に友達に借りた88ヨーロッパ選手権のビデオだった。 『とりもちトラップ』のファンバステンもそうだが、特に印象に残ったのはもちろんルート・フリット。 大柄かつ鋭い眼光に、柔らかなボールタッチから始まる爆走ドリブル。 誰にも止めようが無い、まさに鬼神のようであった。 仁王様がサッカーやったらあんな感じだろう。 とにかくヨーロッパのサッカーに憧れていた。
90年、イタリアワールドカップ。 イタリアを応援し始めたのはこの大会からだ。 そして、イタリアと言えば私にとってはゼンガである。 ワルター・ゼンガ。 517分(たぶん)の連続無失点記録を打ち立て、カテナチオ最後の砦としてその鍵をしっかり守り続けた、イタリアの門番。 とにかく、圧倒的な存在感と安定感。 ゼンガがゴールにいるだけで何故か安心してしまうような、敵にとっては大きな威圧感となってゴールを守っていた。 カーンがちょうどこんな感じである。 特にイングランドとの3位決定戦に見せた、クリス・ワドル(か誰か)のゴール左下隅に真っ直ぐ向かう弾丸ボレーを、受け身のような空手チョップ(?)で全く危なげなく弾き返してしまうその姿に魅了された。
3位決定戦。 そう、優勝に向けて、決勝の地ローマ・オリンピコに向かって完璧な仕上がりで進んでいたイタリアは、準決勝でカニージャの『ちょっと触ったヘディング』で追いつかれ、PK専任キーパーのゴイコチェアによってPK戦の末打ち負かされた。 そう、あの試合は哀愁漂う、悲しい消化戦になるはずであった。 試合開始の際、涼しげな夕方の風に吹かれるバリのサンニコラを背景に、山本浩さんの第一声:

夢は小さくなりました。
この道は、黄金のワールドカップには通じていないのです。

と一言。 心を見透かされたような、それでいて思いやりある声に思わず熱い想いが込み上げてきた。 そして試合開始。 試合は、両チームベストメンバーで臨んだ(ガスコインは累積イエローで出場できなかったが)、それでいてクリーンかつ生き生きした、素晴らしい試合だった。 ワールドカップ90のベストゲームは、間違いなくこの3位決定戦。 そして、試合終了後、イタリア・イングランドの区別無く選手たちが並んで笑いながらウェーブを作る姿が強烈に印象に残った。 そう、この瞬間から私はイタリアファンだ。 『ベルゴミも笑うんだ』そんな小さな発見もあった。
そんな感触は、しばらく味わっていない。 94年は灼熱のローズボウル決戦で満身創痍になりながらも破れ、98年はフランスにPK負け、2000年も同じくフランスに破れ、2002年ではアン・ジョンファンのヘディングにやられ、失意のまま大会を終えることが続いた。 今回こそはと思ったが、残念な結果に終わってしまった。 しかし、夢は破れたが、ドイツ大会に向けて好材料も見つかった。 この道はリスボンには通じていないが、ベルリンには通じていると信じたい。