ダイムラー・クライスラーの苦悩

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20040505AT1D0400E04052004.html

ダイムラークライスラーのユルゲン・フッベルト取締役メルセデス乗用車部門統括は4日、同社のジンデルフィンゲン工場内で日本経済新聞記者と会見し、「三菱自動車との現行のすべての共同プロジェクトが継続される」と語った。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20040504AT3K0401F04052004.html

韓国・現代自動車の株式の約10.5%(時価総額9億4000万ドル)を保有する米・ドイツの自動車大手ダイムラークライスラーが、現代の株式売却を決めたと報じた。

ダイムラー・クライスラーの上層マネジメントにおける管理能力不足が浮き彫りになってきている。 三菱自動車だけではなく現代自動車とも、経営方針と開発提携における共同歩調が取れない。 これはダイムラー・クライスラーにとって忌々しき問題だ。 ダイムラー・クライスラーの基本経営方針は、『利益率の高い高級車は自分で作り、小型車は他社に資金調達することによって成り立たせる』というものだ。 いや、その方針自体はおかしくはない。 三菱自動車現代自動車も、そもそもM&Aしてまで自社グループに参入させる魅力が無い会社、ということだろう。 冷たいかも知れないが、強者の法則とはこんなものだろう。 しかし、これが『世界戦略の一環』なのだろうか? 今後さらなる市場拡大が見込まれる東アジアマーケットにおける自社の優位性を積極的に高める、というよりは『出遅れを避ける』といった消極的な動きのように見える。
いや、それも別に良い。 しかし、だからこそアジアの自動車メーカーとの共同歩調にはそれなりの経営スキルが要求される。 誰も、『金は出すし口は出すが、会社の存続に無関心』という会社とは付き合わない。 逆に、三菱自動車現代自動車にとって、資金調達してくれるだけでも充分メリットのある関係だ。 そう、この関係は、やり方さえちゃんと出来れば、実り有る建設的なものになり得た関係だと言える。 そもそも、ダイムラー・クライスラー自体が、明確な小型車戦略、東アジアマーケット戦略を持ち合わせていなかったのではないだろうか? そしてそれこそが、三菱自動車現代自動車との関係を難しくした最大の要因ではないだろうか?
システム開発でも、デザインの現場でも、求めるものが希薄なクライアントとの共同作業は難しい。 そして、そういったクライアントの要求は作り手側からすれば『不条理』に映り、クライアントから見れば『金も出してあんまり要求も出していないのに、こちらの意見を全く聞かない』となる。 規模は大きいかも知れない。 しかし今回のダイムラー・クライスラーの抱える苦悩は、システム開発者が日々遭遇する問題と次元的にはあまり変わらないものだろう。
何が悪いのか? 要するに、ダイムラー・クライスラー三菱自動車現代自動車との提携は容易であると判断し、充分な経営努力を怠った、ということだろう。 しかし、ダイムラー・クライスラーにとっては、もはや世界戦略どころの話ではない。 自社の足元が揺らいでいるのだ。 三菱自動車株は売らないが、三菱グループが資本投入することによって資本比率は下がる。 しかし、ダイムラー・クライスラーにとってはもうどでも良いことなのだろう。 ただアジア戦略を白紙に戻すまでの決断は出来ていないし、すべきではないだろう。 よって、今後のアジア戦略への見通しが悪くなるのを見過ごす、というのが今の動きだ。
しかし、ダイムラー・クライスラーはいずれ三菱自動車株を売る。 状況が悪化する中、このような消極的対応では出血は止まらず、体力は目減りしていくだろう。 アジア戦略の失敗を認めることを、ダイムラー・クライスラーはまだ出来ないのかも知れない。 しかし、出来る出来ないにかかわらず、失敗なのだ。 そして、今の状況を見る限りダイムラー・クライスラーには、問題解決に対する積極的な姿勢も、有効な対策も見せていない。 三菱自動車に残された時間とは、このダイムラー・クライスラーが続ける出血が止まるまでの時間だ。