『文明が衰亡するとき』by 高坂 正尭 (ISBN:4106002213)

文明が衰亡するとき

私は本が好きだ。 そして社会科学として、およそ答えの出ないであろう事象を解析しようとするあらゆる学問に大きな敬意を払っているつもりだ。 哲学者は『真実とは何か?』という問いの答えを求め、経済学者は『何が物の価値を決めているのか?』と議論し、政治学者は『何故人間は戦争を止めれないのか』と頭を悩ませる。 数字では解明できない抽象的な課題に対して科学的な論証が立てれるというのが、西洋文化が育んできた彼らの(そして今は全人類の)最大の財産だと思っている。 そして、経済学者であれ、歴史学者であれ、政治学者であれ、あらゆる社会科学の研究者達が共通して求めた事象がある。 それは、『何故栄華を誇った文明が、衰亡し、遂には滅んでしまうのか』というという謎だ。
 この本は歴史書でも無ければ、政治学の本でも無い。 『自分も興味があったから、書いてみる』というあくまでカジュアルな意図によって書かれた文明衰亡に関する本である。 ただ、真実を追い求める姿勢というか、一つの学問に捕らわれないバランス感覚というか、故高坂先生のその文章に、自分にはそれらがまったく欠けているということを痛感させられたのを覚えている。 私が始めてこの本を読んだのは中学か高校の頃だったが、私が西洋史に興味を持つきっかけとなったのもこの本だった。 そしてこの人の持っている教養というか、知性というか、そういうものがいつか自分にも芽生えてくれたらと強く思った。 この本は私の人生において非常に大きな意味を持つ本であり、今の自分の価値観の基盤も、もしかしたらここにあるかも知れない。 もちろん頭がもっと良ければ、大学は京大一本に絞ってでもこの人の講義を聞こうとしただろう。(その行為にバランス感覚があるかどうかは別として。 熱意としては、そのくらいの熱意はあったと思う。)
 残念ながら、私は当時目指したその境地には自分が永遠に辿り着けるかどうか疑問だ、ということしかまだ分かっていない。 ただ、その分いつまでたっても、私はこの本が教えてくれた姿勢とバランス感覚を元に自分を矯正していくだろうし、それは私にとって大きなプラスである。 この本は、私にとって大きなガイドブック(プログラマー的に言えばコーディング規約か)であると言える。
 あなたにもガイドブックはあるだろうか。